5月23日(木)、東京・四季劇場[秋]で上演中の『ミュージカル南十字星』において舞台美術家・土屋茂昭氏による「舞台美術セミナー」が開催されました。
舞台となるインドネシアの風土を再現するために、水を張った床や影絵など様々な趣向が凝らされ、美しくも驚きに満ちた『ミュージカル南十字星』の舞台美術。本イベントでは、細やかな仕掛けやこだわりの小道具などその魅力をお届けしました。
今回は、そんな見応えのある美術を、生みの親である舞台美術家の土屋茂昭氏自らが解説する特別イベントとなりました。
まず最初は、この舞台の最大の特徴である「水を張った床」について。床を俯瞰で見るためにお客様は2階から見下ろし、その中で土屋氏と舞台監督の竹村公秀が、その機構と美術的効果を解説していきます。
「インドネシア最大の島・ジャワ島は湧水が非常に多い地域で、人々はその水を使って沐浴や洗濯などを行います。日常の中で“水”が非常に大切で、水に育まれて生きている。日々の暮らしだけでなく、文化や信仰も水と非常に強く結び付いており、太平洋戦争中、そこに日本が歴史として介在していきます。ですから、僕のイメージの中ではこの水が重要で、どうしても使いたかったのです」(土屋氏)
(上段左・左より)土屋茂昭氏、舞台監督の竹村公秀。(下段)実際に床を動かして解説が行われました。
床に張られた水の総量はなんと25トン! 床に水を満たすだけでも2時間かかります。実は、客席から見える範囲だけでなく、舞台の奥や、火祭りの時に袖からせり出す桟橋の下にも、水が張ってあります。インドネシアの田園風景、京都の小川のせせらぎ、ニングラット邸の庭園、火祭りの舞台など、シーンに合わせて様々な顔を見せる「水」の効果。機構を動かして実演すると、その表情の変化に驚きの声が上がりました。
その後、お客様は1階に移動し、今度はジャワ島の伝統的な影絵芝居「ワヤン・クリ」の実演へ。今回は特別に、人形を操作する俳優たちの動きが見えるように裏側を客席に向けてご覧いただきました。伝統楽器ガムランの演奏に合わせての熱演には、お客様もその迫力に圧倒された様子でした。もともと現地での「ワヤン・クリ」の上演では、スクリーンを挟んで表と裏に客席があり、裏から演者と人形を見ることもできます。
(上段)影絵芝居「ワヤン・クリ」の解説の様子。(下段)紗幕の解説の様子。
また、背景に使われる紗幕にも意匠が施されています。インドネシアの場面では5枚、京都の場面では4枚の紗幕が重ねられており、バティック(インドネシアの染め布地)や版画のようなイメージを醸し出しているのです。こうした現地の文化・雰囲気をリアルに表現するための工夫は、物語の大きな見せ場である「火祭り」のシーンにも凝縮されています。バリ舞踏でリナがまとう衣裳や男戦士の舞「バリス」の衣裳は、すべて初演時にインドネシアで制作されたもの。聖獣バロンとランダ(夫に先立たれた女性の悪い霊)の戦いの舞で使われる衣裳や装身具も現地とまったく同じものです。
そして、セミナーはいよいよ物語の終盤へ進んでいきます。まずは監獄のシーン。ここでは中央に下ろされる鉄格子に注目。実は、島村中将と会話する時とリナと会話する時では、その角度が違うのです。土屋氏も「細かな変化ですが、非常にこだわった」というこの鉄格子の角度によって、対話をする二人の人間関係が巧みに表現されています。
二人との会話を経て、処刑台に散っていく保科。セミナーのラストは「13階段」のシーンです。その階段の足元には、やはり「水」が湛えられています。
「この舞台美術を貫いてきた“水”というテーマは、ラストシーンで保科がインドネシアの水に還るというイメージにすべて繋がっています」(土屋氏)
保科が最期に上った13階段を舞台上で間近にご覧いただいたお客様たちも、感慨深げな表情で思いを馳せていらっしゃいました。
劇団四季創立60周年記念としてお届けする「昭和の歴史三部作」『ミュージカル南十字星』は6月1日(土)に千秋楽を迎えます。皆様のご来場、心よりお待ち申し上げております。
『ミュージカル南十字星』東京公演
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